

昭和の情景から
この前、妹が宮本常一の「昭和の情景」という本を貸してくれた。 そのなかに呉市豊島の写真に、赤ちゃんが藁で編んだ丸いツグラという篭のような物に座った写真がある。篭のぐるりには赤ちゃんを傷つけないためだろう、上の縁は布で囲ってある。「こうして母親の手を取らせぬように工夫して、親...
2022年3月8日


島の子学校
出会いがあれば別れがあるように、始まりがあれば終わりの時は来るもんでね。我が島の学校がついに幕を閉じたね。覚悟はしていたものの、実際に明かりが消えた暗い校舎を見るにつけ、尚一層寂しさが募るちゃあね。 「菜の花の 小さき花壇に 溢るるや 子らの歌声...
2022年2月22日


昔日のひとひら
公民館の引っ越しを控え、少しずつ片付けておこうと、古い書類などをめくっていたら、忘れていた色々な事柄が残っていて、ついつい見入ってしまう。たとえば殺鼠剤の申請や軒別の消毒の記録だったり。何よりその中に残る、今は亡き人達の名前。...
2022年2月8日


せいたかばあの腰湯と見合せ丸
子やとの頃のある日、珍しい客が嬉しくて、おかばえかやして、客を困惑させ、見かねた母親が「お茶でも入れて来い」と言えば、まだおかばえかやしていた私は、父親の大きな湯飲み茶碗に、サービスとばかりなみなみと、それはもうなみなみと、持ち上げられない程お茶を注ぐ。客はそれを見て「まあ...
2022年1月25日


フラホ(大漁旗)のこと
島の正月と聞いて、まず思い出されるのが、大漁旗の波。港にぎっしりと繋がれた漁船や石船のマストに飾られた色とりどりのフラホが翻っている様は、ほんの少し前までは、島の正月の風物詩じゃったね。今では港の中は漁船の姿もなく、たまにスナメリが入ってくるような静かな海じゃが、ほんのこな...
2022年1月11日


「ヤンマーのゆで卵」
この前テレビで、池の水を全部抜くちゅう番組をみて、その時使っていた、揚水ポンプをみて、どこかでみたようなと思うてね、つらつら考えるに、子供の頃だと思い当たった。麦の脱穀機のヤンマーじゃったんよ。 麦の脱穀は、仲間仕事で、近くの人が何軒かで寄り合ってやったもんじゃった。その時...
2021年12月28日


石屋の子やとらぁ
「オーイ、子らぁを家に入れえよ」と、父ちゃんの大声。母ちゃんは庭で遊びよる子やとを、急いでかき集め家の中の一番奥まった部屋に入れ、その上に覆い被さる。程なく、ドォーンと腹に響くような音がしたかと思うと、バシバシバリバリとけたたましい音が屋根で響く。...
2021年12月14日


ええくんばい
ひどく寒い日に暖かい風呂に浸かって、「ああ、ええくんばい」 または、暑い暑い日に海に海に飛び込んで、「ええくんばいでよう」 ええ具合とええ案配が、一緒になって生まれた言葉じゃろうか。 とにかく心地良い時や、物事がうまくいった時などに、島では、「ええくんばい」を使う。...
2021年11月30日


東京てれえぐれえ
あねえにてれえぐれえせちょっちゃあ、このみやすい仕事でも、晩までかかろういの。 ぬるさくが、いつまでにやろうとも、どこまでやろうともせんと、人の※メドも気にせんのが、てれえぐれえ。 (※メド=人の表情や気持ちのこと) そのてれえぐれえが、花のお江戸の東京に行ったという。...
2021年11月16日


海辺のアルバム
写真といえば、昔は貴重なもので、年に何度も写るものではなかった。私なども最初の写真は、一歳の祝いにと写真館で撮ってもらったもので、それから後、暫くは写真はなく、次は母が手縫いのワンピースを着て、口を真一文字に結んだ、いかめしい顔の五歳頃のが、登場する。...
2021年11月2日


なんなのう
隣に住む一家のあんちゃんがふく縄から戻り、土産にととらふくをまるごと1匹くれて「よう造るんじゃろうがの」と言うのに対して、我が母曰く「なんちゅうてよう造ろう。造ってくれえでまえ」。隣のあんちゃん答えて曰く「なんなのう。土産をやっちょいて、造ってまでやらんにゃあならんとは」と...
2021年10月19日


おきだの話
暑い暑い夏を乗り越えて「やれやれわしらあは、ようあの暑い夏を生きちょったでえのう」とは、秋のバアサマ達の立ち話。昔のようにおきだに涼みに出る位では追いつかんこのところの夏。一昔前なら夕飯がすんで一息付くとき、おきだに出てウチワで蚊を追いながら、同じように涼みに出た近所の人達...
2021年10月4日